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ボクはやまぐつ

 ボクは山ぐつである。 世間では登山ぐつと呼んでいるらしいが、山ぐつの方が好きなのだ。
ボクが今の主人の所に来たのは十三年前になる。
 アルバイトをして貯めたトラの子で、ボクを買ったらしい。 初めて連れて行ってもらったのが、
南アルプスに近い夜叉神峠という所だった。  ともかく、真近に見る白銀の南アルプスの山並みに、
感激したり驚いたり。  いつかはきっと、あの頂きを踏みしめて見たいと思ったものだ。

 その後、南北アルプス、八ヶ岳、奥秩父等、各地の山を主人と苦楽を共にして来た。
穂高の岩稜、白馬の大雪渓、奥秩父の原生林、数えあげればきりがないぐらい感動の連続であった。
 しかし、南アルプスの黒戸尾根とかいう所を登った時は、あまりの苦しさに主人がもう山はやめるなんて
言い出したりして、ボクは少々慌ててしまったが、頂きについて、主人が山仲間とガッチリ握手なんかして、
 ものすごく嬉しそうな顔をしているのを見て、ホットしたものだ。

でも通勤用のくつは泥だらけのくせに、ボクだけは、山から帰ると泥を落として、丁寧に指先でボクの身体に
油を塗ってくれたりするのである。
 主人は昨年入院したりして1年間ボクはくつ箱の中で窮屈な思いをしたが、この間の連休には久し振りに
山へ連れて行ってもらった。 ヤブをかき分けて登った後で、視界が開け、白銀の南アルプスと八ヶ岳が
 顔をのぞかせてくれた時は、とっても嬉しかった。

 今年の夏、穂高の岩尾根でクリクリッとした目のかわいいオコジョくんに、また会えるかな?
楽しみである。