8月8日早朝の大町駅のレストランで朝食をとった。 レストランの窓からは、これから登る鹿島槍の勇姿が望めて胸の高鳴りを覚えた。 大町駅前からタクシーで大谷原へと向かい、大谷原からトラック道を歩くとほどなく西俣出合であった。 いよいよ、ここから日本三大急登の赤岩尾根に取り付いた。 確かに道は急であったが、案ずるよりは産むが易しで快調に登り続けた。 途中樹林越しに見える残雪を抱いた鹿島槍にも励まされて登ると素晴らしい展望の開ける高千穂平に 着いた。 高千穂平からは足場の悪い所があったりしたが、冷乗越まではわずかであった。 冷乗越からは今まで見えなかった剣、立山方面の展望も開けて思わず見とれてしまった。 乗越から冷池小屋へと向かい、小屋でサブザックに必需品のみを入れて鹿島槍を目指した。 鹿島槍の頂上の展望は素晴らしいものだった。 往路を小屋に戻ってから小屋の前から望む、暮れなずむ鹿島槍の姿は、ものすごく印象的だった。 8月9日朝から風雨が強かった。殆どのパーティは停滞するようだったので私も随分迷ったのだが 針の木への縦走を決断した。 種池小屋、新越山荘でも登山を継続するかどうか悩みに悩んだ挙句、針の木峠へと歩き始めた。 風雨の中をアップダウンの激しい縦走路を歩くのは、本当に辛かった。 また種池小屋を過ぎてからは登山道に人影は全くなかった。 登山道に時折現れる雷鳥の親子達の姿にも励まされて、歯をくいしばって頑張った。 一つのピークを越えても、また次のピークが現れるといった状態の連続で、精神的にもかなりまいって しまった。 このピンチをなんとか切り抜けなければいけないと考えたのは「一歩あるけば一歩、山小屋に近づく」と 言う事だった。 心の中で「一歩あるいた、一歩近づいた」と念じながら苦しい山道を歩き続けた。 はいずるような感じで、ようやく赤沢岳の山頂に到着しようとした時、ガスの中から人影が現れた。 これから鹿島槍方面へと向かう単独の青年だった。 情報を交換して、お互いの健闘を祈りガッチリ握手をした後、青年は再びガスの中に消えて行った。 自分の他にも頑張っている人がいるというのは、勇気づけられるもので、またピークを越えて歩き続けた。 スバリ岳の山頂のコマクサの群落にも勇気をもらい「一歩あるけば、一歩近づく」の精神で歩いた。 最後のピーク、針の木岳に着いた時は本当に嬉しかった。 思わず「やったぞー!」と大声で叫んでしまった。 針ノ木岳からしばら下って針の木小屋の屋根がガスの中から見え隠れした時は思わず目頭が熱くなった。 まさに感動の一瞬だった。 |